目次

この記事は Go5 Advent Calendar 2019 の 1 日目の記事です。

はじめに

Go のメジャーバージョンはいつの間にか 5 まで到達していたようですね、@p1assです。

Go でデータベースにアクセスするときに使うライブラリは database/sql や それをラップした sqlx , gorm , gorp など様々なライブラリがありますが、皆さんはどのライブラリを使っていますか?

おそらく様々な理由があってどれか(ここに挙げられていないものかもしれない)を使っているでしょう。 しかし、それは本当にベストな選択だったのでしょうか?

この記事では、Go でデータベースをアクセスする際に、どんな機能が必要かを考えつつ、上に挙げたのライブラリを比較していきます。 あくまでこの記事で述べるのは僕個人の意見ですが、この記事を通して皆さんが改めてライブラリ選定を考えるきっかけになれば幸いです。

標準ライブラリの database/sql の役割を知る

Go には database/sql という標準ライブラリが存在します。 ここでは改めて database/sql の役割を見ます。

godoc には database/sql について以下のように書かれています。

Package sql provides a generic interface around SQL (or SQL-like) databases. The sql package must be used in conjunction with a database driver. See https://golang.org/s/sqldrivers for a list of drivers.

database/sql は SQL に関する汎用的な機能を提供してます。 コネクションの管理や、クエリの発行、トランザクションなどが当たります。

また、データベースの違いによる差異を吸収するために database/sql/driver にインターフェイスが定義されています。これを実装することで、どのデータベースに対しても内部的に同じ API でアクセスできるようになっています。 Driver の実装は golang/go の wiki に一覧でまとまっていてます。

database/sql に足りないものは?

とはいえ、database/sql は決してリッチなライブラリではありません。

Go の設計思想の中に Simplicity があるように、他の言語とは違い多くの機能を標準で提供していません。

例えば、database/sql ではスキャンしたデータを構造体にマッピングする機能はありません。マッピングするにはスキャンしたデータ 1 つ一つごとに引数でを渡す必要があります。

rows, err := db.Query("SELECT id, name FROM users LIMIT 10")
if err != nil {
  log.Println(err)
  os.Exit(1)
}
defer rows.Close()

type user struct{
  ID int32
  Name string
}

var us []*user

for rows.Next() {
  u := &user{}
  if err := rows.Scan(&u.ID, &u.Name); err != nil {
    log.Println(err)
    os.Exit(1)
  }
  us = append(us,u)
}

勿論これでもデータベースからデータも持ってくるという役割を果たせており、標準ライブラリとしては必要な機能を提供しています。

しかし、実際に使う上では、少々面倒くさいと感じる人が多いと思います。そういった場合はサードパーティのライブラリを使用します。

私がサードパーティのライブラリに求めるもの

それでは、サードパーティのライブラリにどのような機能を求めているでしょうか? いくつか考えられるものを挙げてみました。

  • 構造体へのマッピング
  • 学習コストが低い
  • 素の SQL を書きたい or 書きたくない

1つ目の「構造体へのマッピング」は上で述べた通りです。Go で database/sql のラッパーライブラリを使う理由では最も大きいものではないでしょうか? これは今回比較する sqlx, gorm, gorp 全てで提供されています、

2 つ目の「学習コストが低い」はライブラリ選定で一般的に言えることだと思います。Rails における Active Record のような学習コストが高いが高機能を提供するライブラリも存在しますが、Go らしくないという理由で却下される場合が多いように感じます。

3 つ目の「素の SQL を書きたい or 書きたくない」は 2 つ目とも関連してくる内容です。 SQL はアプリケーションで使われているプログラミング言語に囚われることなく使うことができます。 のため、今まで Java を書いていた人が Go のアプリケーションを開発することになっても、SQL の知識はそのまま転用できます。また、複雑なクエリを発行する際には SQL を直接書いたほうが見通しがよく、インデックスが効かないなどのパフォーマンス上の問題がおきにくいでしょう。

高機能なライブラリではメソッドチェーンなどを用いて、SQL を意識せずにクエリを発行できるようになっています。これは一度覚えてしまえば非常に便利に使うことができますが、SQL の知識をそのまま転用することはできず、ライブラリの学習コストが発生します。 とはいえ、SQL を書くのが面倒くさいと感じる人がいるのも事実です。

「学習コスト」と「利便性」をどちらを選ぶかは非常に難しい問題です。 そこで、一歩踏み込んで、 どんな場合に SQL を書いたほうが良いのか ついて考えてみます。

本当に全ての SQL を書きたいのか?

ここでは基本的な CRUD の SQL を database/ sql にならって Query と Exec に分けて考えます。 Query は副作用のない SELECT、Exec は副作用のある INSERT や、UPDATEDELETE に当たります。

Query

Query、すなわち SELECT は往々にして複雑になりがちです。 複数テーブルの JOINWHEREGROUP BY などを多用するとどんどん複雑になっていきます。

これをメソッドチェーンで実装するとパット見で正しいクエリが発行できているのか分からず、これなら最初から SQL を書いたほうが良かったんじゃないかと思うようになります。

そのため、私は Query は見通しの良さのためにそのまま SQL を書く方が良いと考えています。

Exec

それでは Exec はどうでしょうか?

Exec は Query とは対照的に単純になりがちです。構造体で持っているフィールドをそのまま DB に反映させるだけのことが大半であり、特に複雑ではありません。しかし、テーブルのカラムが多い場合、INSERTUPDATE の SQL を書くのは正直面倒くさいです。これをライブラリ側で隠蔽してしまっても、合計 3 つの関数を覚えるだけで良いので、ほとんど学習コストは増えないと考えられます。

そのため、Exec は database/sql のラッパーライブラリにまかせてしまった方が良いと考えています。

まとめると、SQL を書きたいと思うのは SELECT のみであって、他はよしなにライブラリ側でやってほしいと(私は)考えています。

3 つのライブラリを比較する

以上の議論を踏まえて、 sqlx , gorm , gorp の 3 つのライブラリを比較します。

sqlx

sqlx は非常に軽量な database/sql のラッパーライブラリです。後述する 2 つよりは機能は少ないですが、構造体へのマッピングや名前付きパラメータに対応しています。軽量ということで、基本的に SQL は Query、Exec 問わず書く必要があります。

type Person struct {
FirstName string `db:"first_name"`
LastName string `db:"last_name"`
Email string `db:"email"`
}

db, _ := sqlx.Connect("sqlite3", "test.db")

people :=[]Person{}
db.Select(&people, "SELECT \* FROM person ORDER BY first_name ASC")

db.NamedExec("INSERT INTO person (first_name, last_name, email) VALUES (:first_name, :last_name, :email)", &Person{"Jane", "Citizen", "[email protected]"})

SQL は全部手で書きたいんだ!という人にオススメです。また、database/sql と同じ API なのも良いポイントです。

私は以前 sqlx を使っていたのですが、Exec はライブラリ側でやってほしいと思うようになってから使用をやめました。

gorm

gorm は sqlx とは対照的に高機能なライブラリです。公式で Full-Featured ORM (almost) を謳っています (Go で ORM という単語が正しいのかは議論の対象外とします)。 特に Ruby on Rails などを使ってた人が Go を書く時に使う印象があります。

Query はメソッドチェーンで記述でき、Exec も関数を呼び出すことで実行できます。そのため SQL を書く必要はありません。

type Person struct {
FirstName string `gorm:"first_name"`
LastName string `gorm:"last_name"`
Email string `gorm:"email"`
}

db, err := gorm.Open("sqlite3", "test.db")

people :=[]Person{}
db.Order("first_name asc").Find(&people)

db.Create(&Person{"Jane", "Citizen", "[email protected]"})

なお、一応 Query で SQL を書くことも可能です。

type Result struct {
Name string
Age int
}

var result Result
db.Raw("SELECT name, age FROM users WHERE name = ?", 3).Scan(&result)

gorm は Query は SQL で、Exec はライブラリ側で行うように記述できるため、私の考える SQL を書くべきかどうかの考えを適用できます。

しかし、SQL を書くことはあくまでオプションとして提供されているに過ぎません。複数人開発となると、SQL を書かない人が出てきて、SQL が書かれているものと書かれていないものの 2 種類が存在する可能性があります。この状況は将来的に負債となる可能性が高いです。

そのため、gorm の採用は見送っています。

gorp

最後は gorp です。

gorp は先の 2 つの中間に当たるライブラリです。 Query はデフォルトで SQL を書く仕様になっていますが、Exec はライブラリ側が API を用意しています。

type Person struct {
FirstName string `db:"first_name"`
LastName string `db:"last_name"`
Email string `db:"email"`
}

db, err := sql.Open("sqlite3", "test.db")
dbmap := &gorp.DbMap{Db: db, Dialect: gorp.SqliteDialect{}}
dbmap.AddTableWithName(Person{}, "person").SetKeys(true, "email")

var people[]Person
_, err = dbmap.Select(&posts, "SELECT \* FROM person ORDER BY first_name ASC")

err = dbmap.Insert(&Person{"Jane", "Citizen", "[email protected]"})

この仕様は私が求めていたものにぴったりです。 Exec の為にテーブルとの関連付け用の関数 AddTableWithName を呼ぶ必要がありますが、大した問題にはならないでしょう。

今現在は gorp を主に使って開発を行っています。

まとめ

私が考える database/sql のラッパーライブラリに求めるものは、

  • 構造体へのマッピング
  • 学習コストが低い
  • Query は SQL を書きたい
  • Exec は SQL を書きたくない

の 4 つでした。

この 4 つの要件を満たすライブラリは gorp でした。勿論他にもラッパーライブラリは存在しますが、この要件を満たしつつ、有名な (Star が多い) ライブラリはないのではないでしょうか。

今回は私個人の考えからどのライブラリが適切かを考えましたが、人によって求めるものは異なると思います。今一度自分が何を求めるか考えてみると良いかもしれません。

明日の Go5 Advent Calendar 2019 の 2 日目は soichisumi さんの記事になります。お楽しみに。